matobariace’s diary

読んだ本の感想・備忘録です

黄金の日日 感想

 

早速一つ書いてみます。

 


黄金の日日』/城山三郎


直近で読み終わった物なので、記憶が新しいうちに。


主人公は『納屋(後の呂宋)助左衛門(以下:助左衛門)』。時は永禄11年(1568年)から始まります。


織田信長勢力をどんどん拡大していき、それは堺まで及びます。

堺は商人の町で、三好、松永など、畿内の武将にも顔が利く豪商が、数多く居りました。

その中でも強い力をもつ、『納屋』今井宗久の下で働くのが、この助左衛門です。


助左衛門の実際の記録は、納屋に所属し、ルソン(フィリピン)へ行って大儲けした男、くらいしか残っていません。作中では、父親が宗久の持つ船の船頭でしたが、事故で死んでおり、母も亡くなった為、宗久に引き取られて育った、という設定です。


他では、大泥棒『石川五右衛門』、鉄砲の名手『善住坊』、今井宗久の息子『今井宗薫』、茶人『千利休』『山上宗二』、キリシタン大名高山右近』、そして助左衛門が淡い気持ちを抱き続ける『美緒(史実にはいないようです)』、そして太閤『豊臣秀吉』……と、様々な人間が登場します。

特に五右衛門、山上、利休、右近は作中で深く関わります。


一度は信長を追い払った堺衆ですが、結局屈服します。この時今井宗久は、名物茶器を献上し、ご機嫌取りをします。

信長はご存知のとおり新しいもの好き。畿内では茶の湯が、武将のたしなみとなりつつありました。

茶器にはべらぼうな価値がついていました。助左衛門は思います。「目利きができればめっちゃ儲けられるし、茶の湯知ってれば偉い人とコネできるじゃん」と。

山上はそれをあっさり看破し、茶の湯ってのはそう言うのじゃなくて、『胸の覚悟』を身につけるためにあるんだ、と言います。

 

『胸の覚悟』。これがこの作品の、核心部分だと私は思いました。己の信念をどこまで貫けるか、と言うことだと。

 

登場人物たちは、各々が持つ信念を貫きます。助左衛門は広い世界を見たいと思い、一度失敗した呂宋への渡航を決意し、成功しました。

山上宗二は、勢力を拡大していく秀吉に真っ向から喧嘩を売り、殺されました。『お前のやり方は気に入らない』とはっきり歌で言いました。

利休もそうです。言いがかりを付けられ、秀吉に蟄居を命じられましたが、頭を下げれば許してもらえる立場でした。しかしそれをしませんでした。

 

たとえどうなろうとも、自分の信念を全うする。何となく組織に所属し、生きている私には、彼らの生き様が、本当に眩しく見えました。

 

 

全体として読みやすく、泣けるという描写はありませんが、利休による壺の錬金術などはとても面白く、一度読んでみても損はないと思います。

歴史の流れは本当にざっくりで、大きな合戦しかないので、難しい知識はいらないかと。